【完全解説】事業承継・M&A補助金「専門家活用枠」買い手支援類型・売り手支援類型(14次公募)
※本記事で解説する14次公募は、申請受付期間が2026年2月27日〜4月3日17:00で既に終了しています。ただし、本補助金は例年複数回の公募が行われており、次回以降の公募に備えた情報整理として参考にしていただける内容となっています。
はじめに
中小企業の経営者にとって、「事業承継」「M&A」は避けて通れない大きな経営課題です。後継者不在に悩む経営者、あるいは事業拡大のためにM&Aを検討している経営者にとって、その費用負担は決して小さくありません。
そこで活用したいのが、国(中小企業庁)が実施している「事業承継・M&A補助金」です。今回はその中でも、専門家の活用に焦点を当てた「専門家活用枠」、特に買い手支援類型(Ⅰ型)と売り手支援類型(Ⅱ型)について、14次公募要領をもとに分かりやすく解説します。
1. そもそも、どんな補助金?
この補助金は、中小企業生産性革命推進事業の一環として、事業承継・事業再編・事業統合を促進し、生産性向上による日本経済の活性化を図ることを目的にしています。
簡単に言えば、「M&Aで会社を譲り渡す側」「M&Aで会社を譲り受ける側」のどちらも、そのプロセスにかかる専門家費用などを国が一部負担してくれる、という制度です。
2つの支援類型
| 類型 | 対象 |
|---|---|
| 買い手支援類型(Ⅰ型) | M&Aで株式や事業を譲り受ける予定の中小企業等 |
| 売り手支援類型(Ⅱ型) | M&Aで株式や事業を譲り渡す予定の中小企業等 |
2. 補助上限額・補助率 — いくらもらえるのか?
ここが一番気になるところですよね。
基本の補助内容
| 類型 | 補助率 | 補助下限額 | 補助上限額 | 廃業費の上乗せ | DD費用の上乗せ |
|---|---|---|---|---|---|
| 買い手支援類型(Ⅰ型) | 2/3以内 | 50万円 | 600万円以内 | +200万円以内 | +300万円以内 |
| 売り手支援類型(Ⅱ型) | 1/2 または 2/3以内 | 50万円 | 600万円以内 | +200万円以内 | +300万円以内 |
つまり、買い手側であれば、DDを実施し、廃業費も発生する場合は最大1,100万円まで補助を受けられる計算になります。
売り手の補助率「2/3」になる条件
売り手支援類型では、以下の①②のいずれかに該当する場合のみ補助率が2/3に引き上げられます。該当しない場合は1/2です。
- ① 物価高等の影響で営業利益率が低下している事業者
- ② 直近決算期の営業利益または経常利益が赤字の事業者
つまり、経営が厳しい売り手ほど手厚く支援される仕組みです。
3. 補助対象となる経費 — 何に使えるのか?
補助対象となる経費は多岐にわたります。主なものを整理しました。
事業費(本体経費)
- 謝金:士業・大学教授等の専門家への謝礼
- 旅費:M&A関連の出張費(エコノミークラスまで)
- 外注費:業務の一部を外注した場合の費用
- 委託費:FA(ファイナンシャルアドバイザー)・M&A仲介費用、デュー・ディリジェンス(DD)費用、弁護士・司法書士・行政書士への依頼費用など
- システム利用料:M&Aマッチングプラットフォームの登録料・利用料
- 保険料:表明保証保険の保険料
廃業費(売り手の事業統合に伴う廃業)
- 廃業支援費(登記申請手続きに伴う司法書士・行政書士への費用)
- 在庫廃棄費、解体費、原状回復費
- リースの解約費、土壌汚染調査費、移転・移設費
委託費の具体例(M&A実務でよく発生する費用)
| 費用名 | 内容 |
|---|---|
| 着手金 | FA・仲介とのアドバイザリー契約締結時の費用 |
| 成功報酬 | M&A成立時にFA・仲介に支払う報酬 |
| DD費用 | 財務・法務・税務などのデュー・ディリジェンス費用 |
| 価値算定費用 | 企業価値・株式価値の算定費用 |
| 契約書作成・レビュー | 弁護士による最終契約書のチェック費用 |
| 許認可等申請費用 | 最終契約書に基づき取得すべき許認可の取得費用(行政書士) |
| 定款変更等の登記費用 | 司法書士による登記事務費用 |
ここで注目したいのが、許認可申請や定款変更登記といった、行政書士・司法書士が関わる費用も補助対象となっている点です。M&A実行後の手続きは複雑で、業種によっては許認可の再取得が必要になるケースも多々あります。
4. 重要なルール — ここを押さえないと不採択・減額になります
① M&A支援機関登録制度への登録が必須
FA・M&A仲介費用を補助対象経費にする場合、利用する業者は必ず「M&A支援機関登録制度」に登録された業者でなければなりません。未登録の業者を使うと、その費用は補助対象外になります。
② 相見積もり(2者以上)が原則必須
補助対象経費は、1件50万円以上(税抜)の支払いについて、原則2者以上から相見積もりを取得することが必須です。さらに「外注費、委託費、システム利用料、保険料」については、50万円未満でも相見積もり必須です。
例外的に相見積もり不要となる条件もありますが(レーマン表の範囲内のFA費用など)、書類の不備があるとそのまま補助対象外になります。
③ 補助事業期間内の契約・支払いが必須
補助事業期間(2026年6月上旬から12ヶ月以内を想定)の開始前に契約・発注したものは補助対象外です。交付決定通知書を受理してから着手することが鉄則です。
④ クロージング(M&A実行)が原則必要
買い手支援類型では、補助事業期間内にクロージング(M&A取引の実行)まで完了することが原則。クロージングしなかった場合、補助対象経費はDD費用のみに限定され、補助上限額も300万円に縮減されます。
⑤ 「単なる不動産売買」はNG
不動産売買契約書のみの締結、空き家・賃貸物件のみの売買などは「単なる不動産売買」とみなされ、補助対象外となります。常時使用する従業員1名以上の引き継ぎを伴う実質的な事業承継・統合であることが求められます。
5. 申請の流れ
① GビズIDプライムアカウント取得(1〜3週間かかる) ↓ ② 公募要領の確認、必要書類の準備 ↓ ③ Jグランツで電子申請 ↓ ④ 採択通知 → 交付申請 → 交付決定通知書受理 ↓ ⑤ 補助事業着手(専門家との委託契約締結等) ↓ ⑥ 実績報告 → 確定通知 → 補助金請求・受領 ↓ ⑦ 事業化状況報告(3年間継続)
申請はJグランツ(電子申請システム)からのみ。書類はすべてPDF形式で提出します。GビズIDプライムアカウントの取得には時間がかかるため、早めの準備が必要です。
6. 加点事由 — 採択率を上げるために
審査では以下の事由に該当すると加点されます。
- 中小企業の会計基本要領・指針の適用
- 経営力向上計画、経営革新計画、先端設備等導入計画の認定
- 地域未来牽引企業の選定
- 小規模企業者
- 事業継続力強化計画の認定
- えるぼし認定、くるみん認定
- 健康経営優良法人
- サイバーセキュリティお助け隊サービス利用
- 賃上げ計画(事業場内最低賃金+30円以上)の表明
- 米国の追加関税措置の影響を受けている
加点を狙うには、これらの認定・計画の取得が有効です。ただし賃上げ加点を受けて未達成だった場合、18ヶ月間は他の中小企業庁所管補助金で大幅減点されるリスクもあるため、慎重な判断が必要です。
7. 申請にあたっての注意 — 行政書士法との関係
公募要領には、こんな一文があります。
行政書士(又は行政書士法人)でない者が、申請者に変わって有償で申請の作成をおこなうことは、行政書士法違反に該当する可能性があるほか、交付決定後に行政書士(又は行政書士法人)以外が申請の作成を行ったことが判明した場合、交付決定の取消となる可能性がある。
つまり、補助金申請書類の作成を有償で代行できるのは、原則として行政書士(または行政書士法人)に限られるということです。コンサルタントや経営支援を名乗る業者に有償で申請書類作成を依頼した場合、行政書士法違反となるだけでなく、せっかく採択されても交付決定が取り消されるリスクがあります。
また、申請の作成を行政書士に委任する場合は、
- 日本行政書士連合会発行の行政書士証票の写し
- 委任契約書等(委任範囲が明記されたもの)
を提出書類に加える必要があります。
8. M&Aは「専門家との伴走」が成否を分ける
ここまで読んで、「思っていたよりずっと複雑だ……」と感じた方も多いのではないでしょうか。
事業承継・M&Aは、単に契約書を交わせば終わりというものではありません。
- 相見積もりの取得ルール
- M&A支援機関登録業者かどうかの確認
- 補助事業期間中の契約・支払いタイミング管理
- 経営資源引継ぎ(従業員1名以上の引き継ぎ等)の実質要件
- クロージング後の登記、許認可の再取得、定款変更
- 3年間の事業化状況報告の継続義務
これらを経営者がご自身ですべて把握し、漏れなく実行するのは現実的には相当な負担です。とくに、M&A実行後に必要となる許認可の再取得や定款変更といった行政手続きは、業種によっては事業継続そのものを左右します。建設業、運送業、産廃業、宅建業、飲食業、介護事業など、許認可ビジネスを営む会社の承継では、許認可の引き継ぎ可否が取引価格や成立そのものに直結することも珍しくありません。
そして、補助金申請の作成代行を有償で行えるのは、前述のとおり行政書士の独占業務です。M&Aに伴う許認可の承継、定款変更、契約書のチェック、補助金申請書類の作成――これらを一気通貫で相談できるパートナーとして、事業承継やM&Aの実務に強い行政書士に早めに相談されることをおすすめします。
「自分の会社のケースは補助対象になるのか」「FAや仲介業者をどう選べばいいのか」「許認可の引き継ぎはどう進めればいいのか」――こうした初期段階の疑問こそ、専門家との対話で整理することで、その後の補助金活用やM&A成立の確度が大きく変わります。
まとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 補助率 | 買い手2/3、売り手1/2または2/3 |
| 補助上限額 | 最大1,100万円(本体600万円+廃業費200万円+DD300万円) |
| 補助下限額 | 50万円 |
| 申請方法 | Jグランツ(電子申請)からのみ |
| 必須要件 | GビズIDプライム、M&A支援機関登録業者の利用、相見積もり、事業承継・M&Aの実質要件 |
| 申請代行 | 有償で行えるのは行政書士のみ |
14次公募は終了していますが、本補助金は継続的に公募が実施される見込みです。事業承継やM&Aを検討中の経営者は、次回公募に向けて今から準備を始めることが、採択への近道です。
そして、その準備段階こそ、行政書士という「許認可・契約・補助金申請のプロ」の出番です。M&Aは一生に何度もある出来事ではありません。だからこそ、最初の一歩を踏み出す前に、信頼できる専門家にご相談ください。

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